黒猫が海賊船に乗るまでの話

 おもに黒猫の一人称で語られる。偏屈な老人と折り合わない一人娘のあいだを、海賊とか人形一座とか道化とかオートマータの姫君とか、幽霊あいての物売りとか、サーカスのライオンとかそういうのが出入りする。舞台仕掛を巧みに使って、現実と虚構を扱う。つないだり落っことしたり、またいだり飛び込んだり。

 E.T.A.ホフマンも夏目漱石も好きだし枠物語風味に弱い、そんな私なので、この本はひとまず読んでみたくなるような要素で構成されている。そして、出来がよいとは思うけどなんだか少し物足りないのだった。
 虚実がくるくる入れ替わるにつれて目眩くような雰囲気になって欲しいんだけどな。老人と娘は確執を持て余して、舞台はなかなかまわりだしてくれない。衣装も舞台も手でつくりながら、人形芝居が始まっても、登場人物は役柄を迷って物語を疑う。
 でもしかたないのか。黒猫はシニカルで冷静で、狂言廻しをつかさどる役者人形は要領よく口達者で、舞台をはみでた物語が混じりあう狭間をなかなか理詰めに補完して、そうやって組み立てられていくのなら。
 つくりはしっかりしているので、あとは好みの問題。猫が100匹の鼠を整頓する方法についてのコメントや、幽霊の店への来客とか、ところどころ好きな場面はある。でも私が思うに、黒猫は最後にすこし口を滑らせたな。

「黒猫が海賊船に乗るまでの話」古市卓也、理論社。

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エレベーターホールで

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 夜、映画を観終えて出てきたエレベーターのコールボタンは▼だけなのに、中空に架かる階段の裏側が頭上にあって気になります。

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カラクリオデット

 先日、美女にふられたエリート(比較的)官僚に「それより頭のいい人と結婚しろ」と云ったら「イヤだ」と拒否された。
「見た目と実家の資産で結婚相手を選択する。」とか日頃から云ってるくせして「金持娘の生活観についてゆけない。」だの「自分でものを考えてないところが嫌いだ。」だの、矛盾してるよ君は。

 ひとにもお奨めしているとおり、私は賢い人に弱いため、カラクリオデットというマンガを買ったのも、裏表紙にあった作品紹介の「天才科学者・吉沢博士に創られたアンドロイド・オデット…」って書き出し部分に引っ掛かったと思われる。
 オデットはアンドロイドなのを隠して学校に通いはじめた。自分と人間の違いを知りたがり、その隔たりを埋めたい。それは不可能じゃなくて、オデットはいろいろな出来事を通じて少しずつ成長する。
 そして、衣服の趣味といい、表情豊かな挙措といい、吉沢博士は素敵な人だった。博士に限らず、全般的にキャラクタの動作や表情が様々なことを語ってくれる。無表情も、人工的疑似スマイルだってそう。
 多彩で賑やかな動きをシンプルな線で描くので、ほどよく落ち着いてコミカルだ。で、やっぱり博士の服のセンスがいいな。ニッカボッカに縞々のハイソックスとかね。チェックのファー付きコートやストライプスーツに水玉の三角帽とかね。そしてなによりオデットがそれはそれはキュートだ。

 どうでもいいが、気づいてしまったので書いておきたい事実がひとつ。
 雪の夜の訪問者が「クリス」なのはクリスマスだったから、とは後書きにもあるとおりだけど、彼が持ってきたトラウト博士からの紹介状…トラウトといえば鱒。あ、クリスマスが完成した。

「カラクリオデット(1)」鈴木ジュリエッタ、
 花とゆめコミックス、白泉社。

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